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専門医による分かりやすい『ベンゾジアゼピン系睡眠薬』の解説

話の流れ

種類が豊富
依存性がある
筋肉を弛緩させる

種類が豊富

現在発売されている睡眠薬の中で最も古い系統というだけあり、種類が実に豊富です。そのため、予想される効果持続時間や強さによって使い分けが可能です。睡眠薬の効果は人によってばらつきが出やすいものの、調整の幅があるため微調整がしやすいというのが利点です。

超短時間型:効果持続時間は2~4時間。効果のピークは1時間前後。
 効果の強さ:トリアゾラム>ゾピクロン>ゾルピデム≧エスゾピクロン(一般名)

短時間型:効果持続時間は8時間前後。効果のピークは2時間前後。
 効果の強さ:ブロチゾラム≧エチゾラム≒ロルメタゼパム>リルマザホン(一般名)

中間型:効果持続時間は20~24時間。効果のピークは2時間前後。
 効果の強さ:フルニトラゼパム>ニトラゼパム>ニメタゼパム(一般名)

長時間型:効果持続時間は24時間~。効果のピークは4時間前後
 効果の強さ:クアゼパム>ハロキサゾラム=フルラゼパム(一般名)

中間型と長時間型に関してはその効果持続時間が20時間を越えており、基本的に使用はお勧めできません。

依存性がある

〇精神依存:その薬物が欲しいという強い欲求を生じる作用
〇身体依存:その薬物を使わないと身体の不快な症状が出てくる作用
〇耐性:その薬物を使い続けると、その薬物の効果が出にくくなる作用
〇催幻覚:幻覚症状を誘発する作用
〇精神毒性:気分の落ち込みやイライラなどの不快な精神症状をもたらす作用

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、お酒やタバコ程ではありませんが、依存作用を有する薬です。

適切に使用することで依存症に陥ることを防ぐことは十分可能です。

しかし、現実には依存症の原因薬物(アルコールを除く)の上位に位置しており、その割合は年々増加しています。直近1年以内の薬物使用者だけに限定すると、睡眠薬・抗不安薬に関連した精神疾患(多くは依存症)の割合が覚せい剤によるものの割合を抜いたと報告されています。

今後使用者自身が睡眠薬の適切な使用方法を理解し、薬に使われるのではなく、薬を上手に使えるようになることがとても大切です。

筋肉を弛緩させる

ベンゾジアゼピン系睡眠薬には筋肉の緊張を緩める作用があります。そのため特に高齢者では転倒や誤嚥に注意が必要です。

上のグラフは不眠症及びベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用の有無による転倒リスクを調査し比較したものです。

当然、不眠症がない方にベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用すると転倒リスクは上昇します。

一方で不眠症がある方の場合は、そのまま不眠症を放置するよりもベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用した方が転倒リスクが低下しています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用は転倒リスクを上昇させますが、不眠症をそのまま放っておくほうがより危険なこともあります。そのため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用することは一概に危険とも言い切れず、その使い方を工夫し可能な限り転倒リスクを減らしていくことが重要です。(後述する「注意すべき副作用とその対策」を参照)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は大きく次の2種類に分類されます。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)

慣習に習い非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と記載しましたが、中身は少し副作用が軽減されたベンゾジアゼピン系睡眠薬だと思ってください。Zの頭文字から始まる薬で構成されているためZ薬と呼ばれることもあります。

※当サイトのベンゾジアゼピン系睡眠薬に関する解説には、注記がない限り非ベンゾジアゼピン系睡眠薬も含んでいるものとして捉えてください。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)

Z薬に分類されるのは次の3薬剤です。副作用が軽減され、効果もマイルドになったベンゾジアゼピン系睡眠薬になります。

・マイスリー(一般名:ルピデム)
・アモバン(一般名:ピクロン)
・ルネスタ(一般名:エスピクロン)

転倒等の副作用が軽減されていますが、本質はベンゾジアゼピン系睡眠薬となんら変わりありません

ベンゾジアゼピン系睡眠薬という誤解を生む呼称のためか、睡眠を専門としない医師からも処方されることが多くなっており、年々この非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を原因とした依存症が増加しています

直近では睡眠薬・抗不安薬による依存症の原因薬剤として、マイスリー(ゾルピデム)がデパス(エチゾラム)に次ぐ第2位まで上昇してきています。

GABA』をご存じでしょうか。

GABA含有チョコレートと聞くとわかる方もいるかもしれません。

スーパーで見かけるアレです。

本来、GABAは神経を鎮める作用をもった神経伝達物質ですが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はこのGABAの働きを活性化させることで睡眠を促す薬になります。

GABA含有チョコレートは効果があるの?

ベンゾジアゼピン系睡眠薬

GABAにはいくつかの種類があり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は様々なGABAの働きを活性化させます。そのため睡眠作用だけでなく、筋肉の緊張を和らげる副作用も出現しやすくなっています

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)

Z薬は、特定のGABAの働きを重点的に活性化させ、その活性化の度合いも他剤と比較して弱まっています。そのため、筋肉の緊張を和らげる副作用が出にくく、眠りを誘う効果もマイルドになっています。ただし、筋肉を緊張を全く和らげないわけでもなく、依存性がないわけでもありません多少それらの副作用が弱まっているだけであり、注意は必要です。

依存

ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、その薬が欲しくてたまらなくなる精神依存に加えて、その薬を使わないと動悸がしたり眠れなくなってしまうといった身体依存使用しているうちに効果が出にくくなる耐性の3つの依存作用があります。

そう簡単に依存するものでもありませんが、依存してしまうとその改善には時間がかかることが多く、あらかじめ如何に依存しないように服薬していくかが大切です。

薬に依存するかどうかはその薬の強さ、薬の使用頻度によるため

効果の弱い薬を優先的に使用する
薬の用量はなるべく減らして使用する(同じ薬でも用量が低いほど効果は弱まります)
必要な時だけ(次の日が休みの時は使わない等)使用する(このような使い方を頓服利用と呼びます)

といった対策が有効です。

既に睡眠薬を服用している方で既にある程度の睡眠が取れている方は、主治医に減量もしくは効果の弱い薬への変更、頓服利用について相談することをオススメします。

既に依存している(と思われる)場合の対策についてはこちらの記事を参照ください➡鋭意製作中

転倒

特に高齢者は筋肉が減少し、薬の代謝が悪いため筋肉の緊張を緩める副作用も出やすく、転倒の危険性が高まるため注意が必要です。

夕以降の水分摂取を控え、就寝前にトイレを済ませておく
足元になるべくモノを置かない
寝床に入る直前に薬を内服する

といった対策が有効です。

中には薬の必要性を適宜検討せず、それまでの流れで薬を処方し続けている医師もいます。「医師から処方されたから」という理由だけで睡眠薬を服用し続けている方は、改めてその必要性について考え、減らしたり、薬を変えたり、頓服利用にできないか医師に相談しましょう。

健忘

頻度は多くはありませんが、時に睡眠薬を内服した後記憶なく行動してしまうことがあります。例えば「翌朝お菓子のゴミが散らかっており、どうやら夜中に自分がお菓子を食べたようだが覚えていない」といったことは時折患者さんから聞きます。こういった症状を前向性健忘と呼びます。

飲酒はしない
床に入る直前に薬を内服する

お酒と睡眠薬を併用することで症状が出やすくなりますので、睡眠薬を内服する日は晩酌しないようにしましょう。また睡眠薬を内服した後早めに寝床に入り余計なことをしないようにすることも前向性健忘によるトラブルを避ける対策になります。

ただし、こういった対策を行っても夜中に記憶なく行動してしまうといった症状が出てしまうことがあります。その場合はなかなか有効な対策はなく、2回以上認めた場合は主治医に早めに相談し薬を変更するのが望ましいです。

これまでに挙げた対策と重なるところもありますが、

用量は可能な限り減らし、できるようなら必要な時にのみ内服するようにする
薬に頼るだけではなく、睡眠改善のための生活習慣の見直しを適宜行う
お酒とは絶対に併用しない

睡眠薬は上手に使えばまったく怖い薬ではなく、良い薬になります。特にベンゾジアゼピン系睡眠薬を使う際は、ここに挙げた上手に使うためのコツを意識しながら使用してみてください。

『専門医がオススメする『自分で出来る睡眠対策 5選』

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この記事を書いた人

子供3人の子育てに奮闘中の父。総合病院精神科で副科長を務め、様々な精神疾患・メンタルヘルスの問題で苦しむ人々に寄り添ってきた精神科専門医・指導医、精神保健指定医、リエゾン専門医。少しでも多くの人に今よりも生きやすくなってほしい。そんな思いで精神疾患・メンタルヘルスに関する情報を発信しています!

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