お知らせ内容をここに入力してください。

専門医が「社交不安障害」について出来る限り分かりやすく解説してみた

話の流れ

人前に出ると緊張して頭が真っ白になってしまったり、手や声が震えて恥ずかしい思いをしたことがある。そんな方はいませんか。

初めての挑戦でそうなってしまうことは正常ではありますが、同じような経験を繰り返している場合、「社交不安障害」という病気の可能性があります。そしてそれは正しい治療や訓練によって改善が期待できるものなんです。

今日はこの「社交不安障害」について出来る限り分かりやすく解説します。

社交不安障害(社交恐怖症)

他人の注目を浴びる可能性がある状況に対して極度に不安や緊張を感じ、日常生活に支障が出る病気です。

脳内の不安を引き起こす回路が過敏になっていることが原因ではないかと考えられており、過敏さを和らげる薬や訓練による治療が有効です。

有病率

12ヶ月間有病率




日本における12ヶ月間有病率(過去1年間でその疾患を患っていた人の割合)は0.8%1であり、1年間の間におよそ100人に1人が社交不安障害を患っていることになります。

この頻度が多いのか少ないのかピンときにくいですが、医学的にはありふれた一般的な疾患に分類される頻度です。

実際の有病率はもっと多い?専門医による少しマニアックな話

アメリカで過去に行われた調査によると、12ヶ月間有病率は6.8%2や7.9%3であったと報告されています。アメリカと日本でなぜここまでの乖離があるのか。あくまで推測ではありますが、社交不安障害を診断するにあたってその人が属する社会集団の平均と著しくかけ離れた不安を呈しているかどうかが判断基準となっており、一般的にシャイな人が多いとされる日本人集団では診断するにあたっての不安強度のハードルが高く設定されてしまっているものと思われます。結果、世界的には社交不安障害と診断される人が日本では正常の範囲内と判断されている可能性があります。しかし、本人が感じている苦痛は同じであり、本来だったら治療に繋がることで改善する可能性のある人が、治療に繋がっていない可能性が高いです。

男女比

やや女性の方がなりやすい傾向があります(オッズ比:1.5~2.2)が、そこまで目立った違いはありません。

好発年齢

平均発症年齢は18.6歳4ですが、発症年齢の中央値は13歳であり、75%の人が8~15歳という若さで発症するとされています。

いずれにせよ若くして発症しやすい疾患であり、未治療で症状が続いた場合、人生に与える影響は計り知れません。

上記に挙げたような他者から注目される可能性のある様々な状況で症状が誘発される可能性があります。

どういった状況で症状が出現するかによって社交不安障害は以下の2つのタイプに分けられます。

パフォーマンス限局型:人前で発表や面接をする等のパフォーマンスを行わなければいけない状況に限って症状がでるもの

全般型:お店で食事をする、会議に出席するといった自身がパフォーマンスを行う必要がない対人関係全般で症状が出てしまうもの

基本的に全般型はパフォーマンス限局型より重症と判断されますが、いずれの型であっても治療方法や対策に大きな違いはありません

こころの症状

「ダメな奴と思われないだろうか」
「迷惑をかけないだろうか」
などの過剰な不安や恐怖が出てくる

不安や緊張で頭が回らなくなる

不安・恐怖のあまり、やるべきことを避けてしまう

身体の症状

冷や汗を大量にかく

息苦しくなる

胸がドキドキする

顔が赤くなる

手が震える

診断基準その1

人前に出て何かすることに

・否定されるかもしれない
・迷惑をかけるかもしれない


という不安・恐怖を感じる

診断基準その2

同じ状況で不安恐怖を繰り返す

他の人より不安・恐怖が強い

その状況を回避してしまう・耐え忍ばなければならない

診断基準その3



6か月以上続いている

この3つの基準を満たすと「社交不安障害」と診断されます。

正式な診断基準を知りたい方はこちらをクリック

『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』による診断基準

以下の基準を全て満たすこと。

A. 他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやり取り(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他社の前で何らかの動作をすること(例:雑話をすること)が含まれる。
※子供の場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間たちの状況でも起きるものでなければならない。

B. その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう。拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。

C. その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。
※子供の場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮み上がる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。

D. その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。

E. その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。

F. その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6か月以上続く。

G. その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

H. その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

I. その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない。

J. 他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱傷や負傷による醜形)が存在する場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。
(出典:DSM-5)

ICD-10(国際疾病分類第10版)』による診断基準

確定診断のためには、以下のすべての基準を満たさなければならない。

a. 心理的症状、行動的症状あるいは自律神経症状は、不安の一次的発現であり、妄想あるいは強迫思考のような他の症状に対する二次的なものであってはならない。

b. 不安は、特定の社会的状況に限定されるか、あるいはそこで優勢でなければならない。

c. 恐怖症的症状を可能な限り常に回避する。
(出典:ICD-10)

薬による治療

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

安心ホルモンとも呼ばれるセロトニンの働きを活性化させることで不安を軽減するSSRI(抗うつ薬の一部)が使用されることが多く、その中でも医療保険の適応となっているのはデプロメール・ルボックス(一般名:フルボキサミン)、パキシル(一般名:パロキセチン)、レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)の3剤です。しかし、効果が出てくるまでに数週間程度かかるため、不安・心配が強く直ちに緩和する必要がある場合は後述するベンゾジアゼピン系抗不安薬を併行して投与することも多いです。

他にも有効な薬はあるが。。。専門医による少しマニアックな話

他にSSRIに分類されるジェイゾロフト(一般名:ジェイゾロフト)やSNRIに分類されるイフェクサー(ベンラファキシン)でも同等の効果および安全性が確認されていますが、日本では今のところ保険適応になっていません。基本的にまずは保険適応となっている3剤のいずれかを優先的に使用するようにしましょう。(保険適応でない薬を使用して万が一重大な副作用が出た場合、公的な救済制度を利用できないというリスクがあります

SSRIによって多少の改善を認める割合は43~72%であり、症状がほとんど治まる割合は10~30%です。必ずしも効果が現れるわけではない点には留意が必要です。また、改善後すぐに薬をやめた場合再燃リスクが高まることも分かっており、可能であれば1年以上内服継続することが推奨されています。

『SSRI』についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

いわゆる「安定剤」と呼ばれるお薬です。基本的に1時間以内に不安を和らげる効果が出てくるので、人前でパフォーマンスをする直前などにレスキューとして利用します。効果持続時間や効果の強さの違いによって多くの種類が存在します。数時間程度効果が続く薬あれば十数時間続くものもあり、通常その人の体質や状況を見ながら調整を行います。定期的に内服することもありますが、社交不安障害の場合は人前に出る時にのみ服用する頓服利用がお勧めです。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用にあたって注意すべき点は、長期服用・高用量服用による薬物依存です。ただし、用法用量を守って使用し数か月程度の利用に留めたり、数日に1回適切な用量を内服する程度の利用であれば、依存の心配はほとんどありません

ベンゾジアゼピン系の薬には依存作用の問題があるけど、処方する側と使用する側がしっかりとこの薬について理解して、適切に使うことを心がければ、とても有効な薬なんだよ。
実際お酒よりも依存性は低いんだ。

『ベンゾジアゼピン薬』についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください

精神療法による治療

認知行動療法

認知行動療法とは、物事のとらえ方を修正したり対処行動のとり方を変えることで、精神症状の改善を図る訓練になります。社交不安障害に対して行われる精神療法の中では最も効果が期待できる精神療法です。基本的には週1回50分の面接を12~18回行い、毎回宿題という形でホームワークを行います。ただし、残念ながらこの治療を実施できる医療機関は非常に少ない(主にそこまで時間を割くことが出来ないというマンパワーの問題が大きいと思われます)という難点があります。

認知行動療法の有効性については、薬物治療と同等かそれ以上と考えられていますが、はっきりとしたことは分かっていません。現時点では、薬物治療の方が効果は早く出やすく、認知行動療法の方が再燃リスクが低いということが分かっています。

認知行動療法と薬物治療を併用に関しては、単独治療よりも改善率が高まるという報告もあれば、高まらないという報告も複数あり、結論が出ていません。

『認知行動療法』について詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください

その他の精神療法

認知行動療法に次いで採用されるのが暴露療法と呼ばれる精神療法になります。これは敢えて本人が回避している場面に曝すことを繰り返すことで、不安・心配に慣れさせるという訓練になります。社交不安障害の場合、他人に注目される状況に敢えて挑戦することになります。実施ハードルが高くなかなか実行できないのが難点ですが、技術革新によってVR(仮想現実)を利用した暴露療法の開発が行われており、今後自宅で手軽に実施出来るようになれば有効な治療法となる可能性があります。

治療しない場合、60%程度の人は症状が数年以上持続するとされています。また、症状が持続することでうつ病や依存症等の精神疾患を合併しやすくなることが分かっています。しかし、見方を変えるとおよそ40%の方は数年以内に自然改善(とは言っても個人的に対策した結果でしょうが)するということでもあります。

自身で出来る有効な対策が2つあります。

知り合いの前で練習を繰り返す
自身で認知行動療法を実施する

知り合いの前で練習を繰り返す

社交不安障害の本質は、「人前で失敗して自身を否定されるのではないか」という不安によって人前に出ることがより不安になってしまうという悪循環です。そのため、家族などの見知った人に協力してもらい、その人達の前でパフォーマンスを行い、良かった点をフィードバックしてもらうということを繰り返し、否定されるのではないかという不安の軽減を図る方法です。

自身で認知行動療法を実施する

認知行動療法は基本的に訓練を受けた医療者の協力の下で実施するのが安全ではありますが、自身で実施するためのワークブックも存在します(書店などで販売されています)。私の患者さんの中にはこのワークブックを用いて症状が改善した方も多数おられます。ただ、注意してほしいのが、認知行動療法は一朝一夕で効果が出てくるものではなく、また途中で躓いてしまうことも多いという点です。実際私自身もセルフ認知行動療法を行うことがありますが、なかなかすぐに上手くいかなかったり、状況によって出来なかったりすることが多々あります。そういった時は、決して自分を責めないこと。頑張っていることを褒めてあげるようにしてください。そしてゆっくりゆっくりとで大丈夫ですので、トライすることを続けてください。

実は私も「社交不安障害」で苦しい思いをした経験があります。学生時代は人前で文字を書くだけでも手がわなわなと震えてしまい、同窓や教師からそのことを指摘され笑われたりからかわれることもあり、人前にでることを避けるようになってしまいました。公衆トイレで横に人がくるだけでも尿意が引っ込んでしまうような状態にまで陥ってしまいとても苦しかったです。その後、前述したワークブックを用いながら認知行動療法を行うことで徐々に克服しつつありますが(SSRIは残念ながらアクチベーションの副作用が出て使用は断念しました)、今だに新たに人前に出る場面に遭遇すると手が震え、声が震えることはあります。それでも、少しずつでも症状が改善していることを実感しつつ、お守りに安定剤を常備してはいるものの、そこまで使わず乗り越えられるようになってきています。ここで発信した情報がどうか同じように苦しんでいる人の助けに少しでもなれたらと節に願っています。慌てず少しずつ治療・訓練を頑張れば、必ず症状は改善します。どうかあきらめないでください。私は応援しています!

  1. Twelve-month prevalence, severity, and treatment of common mental disorders in communities in Japan: Preliminary finding from the World Mental Health Japan Survey 2002–2003 ↩︎
  2. DSM ↩︎
  3. Lifetime and 12-month prevalence of DSM-III-R psychiatric disorders in the United States: Results from the National Comorbidity Survey ↩︎
  4. Clinical features and treatment outcome in Japanese patients with social anxiety disorder: Chart review study. ↩︎
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

子供3人の子育てに奮闘中の父。総合病院精神科で副科長を務め、様々な精神疾患・メンタルヘルスの問題で苦しむ人々に寄り添ってきた精神科専門医・指導医、精神保健指定医、リエゾン専門医。少しでも多くの人に今よりも生きやすくなってほしい。そんな思いで精神疾患・メンタルヘルスに関する情報を発信しています!

コメント

コメントする

CAPTCHA


話の流れ