全般性不安障害について
全般性不安障害(全般不安症)
普段の生活の中で色々なことに強い不安を感じ、様々な心身の症状が続き、日常生活に支障が出る病気です。
「心配性」と片づけられることが多いですが、不安をなかなか払拭できないことで強い苦痛を感じたり、放っておくとうつ病等の他の精神疾患を合併しやすくなる病気です
有病率
12ヶ月間有病率:0.4~3.6%1
生涯有病率:4~9%[1]
およそ10~20人に1人が生涯で「全般性不安障害」に罹患することになります。
決して稀な病気ではありませんが、「心配性」と一括りにされ、見逃されていることがほとんどです。
男女比
男女比
1:2
女性の方が男性に比べ2倍罹りやすい傾向があります。
好発年齢
発症年齢の中央値は30歳。有病率のピークは中高年と人生の半ばから後半にかけて罹患者数が増える傾向があります。
合併症
全般性不安障害は他の精神疾患を合併しやすいという特徴があります。常日頃から様々なことに対して不安を抱くことで精神的に疲弊してしまうためです。
合併頻度が高いものから、大うつ病性障害が62.4%、気分変調症が39.5%、アルコール依存症が37.6%、パニック障害が23.5%2の確率で生涯の間に合併します。複数合併することもあり、全般性不安障害を患う方の実に90%近くが何かしらの精神疾患を合併することが分かっています。
全般性不安障害はそれによる苦痛だけでなく、他の精神疾患を合併してしまいやすいという二重の苦痛を生じてしまう疾患です。
全般性不安障害の症状
こころの症状
・落ち着かない
・疲れやすい
・集中できない
・怒りっぽい
・驚きやすい
・緊張しやすい
身体の症状
・肩こり ・汗をかきやすい
・のどが渇きやすい ・めまい
・吐き気 ・呼吸が浅くなる
・頻尿 ・呼吸苦
・眠りが悪い
全般性不安障害の診断
診断基準その1
生活上のいろいろなことが
過剰に不安になる
診断基準その2
こころ・身体の症状を複数認め
&
生活になんらかの支障が出ている
診断基準その3
他の精神疾患の症状ではない
&
6か月以上続いている
この3つの基準を満たすと「全般性不安障害」と診断されます。
正式な診断基準を知りたい方はこちらをクリック
『DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)』による診断基準
以下の基準をすべて満たすこと。
A. (仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6か月にわたる。
B. その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている。
C. その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6か月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。
※子供の場合は1項目だけが必要
1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
2. 疲労しやすいこと
3. 集中困難、または心が空白となること
4. 易怒性
5. 筋肉の緊張
6. 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)
D. その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
E. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
F. その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない(例:パニック症におけるパニック発作が起こることの不安または心配、社交不安障害における否定的評価、強迫症における汚染または、他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における外傷的出来事を思い出させるもの、神経性やせ症における体重が増加すること、身体症状における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点や知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配)
(出典:DSM-5)
『ICD-10(国際疾病分類第10版)』による診断基準
患者は、少なくとも数週、通常は数か月、連続してほとんど毎日、不安の一次症状を示さなければならない。それらの症状は通常、以下の要素を含んでいなければならない。
a. 心配(将来の不幸に関する気がかり、「いらいら感」、集中困難など)
b. 運動性緊張(そわそわした落ち着きのなさ、筋緊張性頭痛、振戦、身震い、くつろげないこと)
c. 自律神経性過活動(頭のふらつき、発汗、頻脈、あるいは呼吸促迫、心窩部不快、めまい、口喝など)
※小児では、頻回に安心させる必要があったり、繰り返し身体的訴えをすることがあるかもしれない。他の症状で、とりわけ抑うつが一過性に(一度につき2,3日間)出現しても、主診断として全般性不安障害を除外することにはならないが、患者はうつ病エピソード、恐怖性不安障害、パニック障害、あるいは強迫性障害の診断基準を完全に満たしてはならない。
(出典:ICD-10)
全般性不安障害の治療
薬による治療
残念ながら現時点で『全般性不安障害』に対して保険適応のある薬は日本には存在しません。(日本ではあまり知られていない疾患のため、今まで薬の有効性の調査が行われてこなかった)
そのためここで紹介している薬剤は世界的に有効と証明されてはいますが、純粋に全般性不安障害に対して使用する際は保険適応外の使用となることをご留意ください。
※実際は多くの場合抑うつ症状等の合併があり、その合併症に対して保険適応が通ることも多いです。
SSRI/SNRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬/セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
抗うつ薬の一種であるSSRI及びSNRIの有効性が報告されています。反応率(改善傾向を認めた割合)は67.7%、寛解率(症状が消失した割合)は平均39.7%3という報告もありますが、体感としてはこの数値より有効性は低い印象です。効果が出てくるまでに2週間以上かかること、特に内服開始時や増量時に吐き気等の胃腸症状が出やすいこと、人によって眠気や勃起障害等が出現することには注意してください。
『SSRI』についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。
『SNRI』についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。
リリカ(一般名:プレガバリン)
本来腰椎ヘルニアや糖尿病等による神経痛に対して適応をもった薬ですが、不安障害の中でも全般性不安障害に有効であることが分かっています。有効性はSSRI/SNRIには劣るとされていますが具体的な数値は不透明です。1週間程度で効果が出現し、SSRI/SNRIと比較すると効果が出るまでの期間は短いです。ただしいずれの精神疾患にも保険適応がなく、保険適応外の使用となる可能性があること、5人に1人以上が眠気やふらつきの副作用を呈することには注意してください。
セロクエル(一般名:クエチアピン)
「抗精神病薬」であり本来統合失調症に用いられる薬です。有効性はこれまでの薬よりも劣り、第1・第2選択薬で効果が得れない場合にのみ使用が検討されます。体重増加の副作用リスクがあり、糖尿病にかかったことがある人は使用できないといった制約も存在します。
『抗精神病薬』についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。
精神療法による治療
上図のように、私たちの物事の捉え方(認知)は私たちの気分や感情、行動、身体の反応と密接に影響を及ぼしあっています。この中で私たちが意識することで変えることが可能な部分はどこか分かりますか?それは認知と行動の部分です。例えば上図の例では、認知の部分を「まだ危険な感染症かどうか分からないから様子をみよう」と変えることが出来れば、不安や恐怖といった感情は幾分和らぎ、行動が制限されたり呼吸が苦しくなるようなことを防げるかもしれません。行動の部分をひとまず「息抜きに漫画本でも読んでみる」に変えることが出来れば、同じように苦痛を和らげられるかもしれません。この認知もしくは行動の修正を試みることで気分や感情を始めとした様々な悪影響の改善を図る治療法が『認知行動療法』になります。
認知行動療法は全般性不安障害に対して最も効果が期待できる精神療法です。基本的には週1回50分の面接を12~18回行い、毎回宿題という形でホームワークを行うことでこの認知と行動の修正を図る治療法になります。ただし、残念ながらこの治療を実施できる医療機関は非常に少ない(主にそこまで時間を割くことが出来ないというマンパワーの問題が大きいと思われます)という問題があります。
認知行動療法についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。
自分で出来る対策はないの?
自身で認知行動療法を実施する
認知行動療法は基本的に訓練を受けた医療者の協力の下でアドバイスを受けながら実施するのが安全ではありますが、自身で実施することも可能です(書店で自身で行うためのワークブックが販売されています)。私の患者さんの中にもこのワークブックを用いて症状が改善した方は多数おられます。ただ、注意してほしいのが、認知行動療法は一朝一夕で効果が出てくるものではなく、また途中で躓いてしまうことも多いという点です。実際私自身もセルフ認知行動療法を行うことがありますが、なかなかすぐに上手くいかなかったり、状況によって出来なかったりすることが多々あります。そういった時は、決して自分を責めないこと。頑張っていることを褒めてあげるようにしてください。そしてゆっくりゆっくりとで大丈夫ですので、トライすることを続けてください。
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