抗うつ薬とは?
うつ病治療に用いる薬を総称して『抗うつ薬』と呼びます。
ただし、うつ病以外に別の精神疾患で抗うつ薬が使われることもあります。『抗うつ薬』と一言で言っても、20種類以上の薬が存在し、それぞれに異なる特徴や出やすい副作用があります。
抗うつ薬すべてに共通する特徴
抗うつ薬の働き
いずれの抗うつ薬も感情に影響を与える神経伝達物質を調整する作用をもつお薬です。
神経伝達物質とは神経細胞に働きかけ私たちのあらゆる活動の源となる物質です。神経伝達物質には様々な種類がありますが、その中でも特に感情に影響を与える神経伝達物質の乱れを調整します。
気分の落ち込みすべてに効果が出るわけではなく、脳内の神経伝達物質の乱れを生じている、いわゆる「病気」の状態の方に効果を発揮する薬になります。
抗うつ薬の種類と副作用
抗うつ薬は、主にどの神経伝達物質を調整するかによって、大きく5つのカテゴリーに分けられます。
–選択的セロトニン再取り込み阻害薬–
SSRI(Selective serotonin reuptake inhibitors)
SSRIに分類される薬(一般名表記)
パロキセチン、ジェイゾロフト、エスシタロプラム、フルボキサミン
特徴
セロトニンの働きを改善➡不安を和らげやすい
セロトニンには安心感をもたらす働きがあり、不安が強いうつ病の方に使用されることが多いです。また、不安神経症等のうつ病ではない精神疾患にも用いられます。
副作用
もっとも生じやすい副作用は胃腸症状(特に吐き気、食欲不振)です。内服開始or増量後数日以内に生じることが多く、10~20%前後の確率で発生します。ほとんどの方は内服を続けることで1週間以内に胃腸症状は改善します。そのため、胃腸症状の程度が強くなければ1週間程内服を続けてみてください。主治医の先生が吐き気止めを処方してくれることも多いので、心配な方は相談してみましょう。
他にも生じやすい副作用として眠気があります。こちらも10~20%前後の確率で現れます。内服継続によって1~2週間程で改善することもありますが、胃腸症状と比べると残存しやすい傾向があります。生活に支障が出たり不快な場合は速やかに主治医と相談し、内服タイミングの調整や薬の減量・変更を検討しましょう。
他に注意すべき副作用として、アクチベーション症候群というものがあります。頻度は数%であり、胃腸症状と比べると稀な副作用ですが、衝動性や焦燥感が高まる等精神的に不安定となるため注意が必要です。内服開始・増量後2週間以内に生じやすく、特に10~20代の若い方の方が発現しやすいため注意しましょう。予め副作用の可能性について知っていれば慌てることはありません。自然と改善することも多いですが、副作用が辛い場合は速やかに主治医に相談し薬の変更や減量を検討しましょう。
-セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬-
SNRI(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor)
SNRIに分類される薬(一般名表記)
デュロキセチン、ベンラファキシン、ミルナシプラン
特徴
ノルアドレナリンの働きも改善➡意欲を改善させやすい
SSRIと比較して、一般的にセロトニンによる不安軽減作用は弱いとされていますが、代わりにノルアドレナリンの改善効果が加わったことでやる気を沸かしやすい傾向があります。意欲が低下しているうつ病の方に処方されることが多い薬です。
副作用
SSRIと同様、内服開始後or増量後に胃腸症状(吐き気や食欲不振)や眠気が出やすいです。いずれも1~2週間で改善しやすいですが、症状が強かったり、残存する場合は主治医と相談しましょう。
SSRIと同様にアクチベーション症候群を生じることがあります。
ノルアドレナリンの作用により、排尿困難をきたすことがあります。おしっこが出にくい状態を放っておくと尿路感染症等の原因となることもありますので、内服開始後排尿困難を感じたら速やかに主治医に相談しましょう。
-ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬-
NaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)
NaSSAに分類される薬(一般名表記)
ミルタザピン
特徴
食欲増進、眠気をきたしやすい➡眠れない、食欲がない方に最適
ミルタザピンの大きな特徴は食欲増進と睡眠改善の効果が出やすい点です。ヒスタミンと呼ばれる神経伝達物質の働きを抑える効果を併せ持っており、その影響と考えられています。1日1回寝る前に内服する薬で、なかなか眠れないうつ病の方や食欲が低下している方に使用されることが多いです。
副作用
半数近くの方に眠気の副作用を生じます。寝る前に内服することで夜間睡眠の改善に寄与しますが、翌日に眠気が残り続けるようでしたら薬の変更や減量を検討した方が良いでしょう。
また食欲が増した結果、体重増加してしまうことがあります。のどの渇きが20%程度の確率で現れます。
四環系抗うつ薬
四環系抗うつ薬に分類される薬(一般名表記)
マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリン
特徴
良くも悪くもすべてがマイルド➡抗うつ効果は他剤に劣るが副作用リスクも低め
主にノルアドレナリンの働きを改善させる作用があります。2番目の古い抗うつ薬であり、最初期の抗うつ薬の副作用を軽減する改良が施されていますが、その分抗うつ効果もマイルドとなっています。その後開発されたSSRIやSNRI、NaSSAが現在のうつ病治療の主流となっており、この薬は現在うつ病治療にはあまり使われていません。
副作用
眠気が20%前後の確率で現れます。次に多いのはのどの渇きで10%前後です。
三環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬に分類される薬(一般名表記)
クロミプラミン、イミプラミン、トリミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、アミトリプチリン、ドスレピン、アモキサピン
特徴
抗うつ効果は強いが、副作用が出やすい
最も古い抗うつ薬です。他の抗うつ薬と比較して重症のうつ病でも効果を発揮しやすい傾向がありますが、その分副作用も出やすいという特徴があります。副作用が出やすいため現在はあまり使われませんが、重症のうつ病に限っては処方されることがあります。
副作用
開発時期が古いため副作用の発症率について正式に調査されてはいませんが、のどの渇きや便秘、排尿困難、眠気やふらつきといった副作用が量が増えるに従って出やすくなる傾向があります。経験上、十分量使用するととても高確率で副作用を生じます。
抗うつ薬の特徴早見表
あくまで系統ごとの大まかな特徴になります。服用される方の体質でも変わってきますし、同じSSRIでもパロキセチン(パキシル)では性機能障害が出やすく、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)では性機能障害が出にくいといったように薬毎に特徴の違いがあります。
薬の効果はいつ頃出るの?
抗うつ薬は副作用のリスクを減らすため少ない量から飲み始めます。副作用の程度を確認しつつ1~2週間おきに量を増やしていき、十分な量になるまで増量していきます。薬によっては初回量で十分な効果を発揮できる薬も存在します。このあたりは主治医の先生が量を調整してくれます。
抗うつ薬の効果は十分な量を飲み始めて1~2か月程で現れます。残念ながら飲んですぐ効果が出てくる薬ではありませんので、効果がないからといってすぐに内服を中断しないよう注意してください。
内服上の注意点
内服する上で注意すべきポイントは次の3点です。
〇 用法用量を守ること
〇 勝手に中止しないこと
〇 改善後も継続すること
用法用量を守ること
どの薬でもそうですが、用法用量は最も効果が出やすく有害事象が出にくくなるように設定されています。用法用量を守らず症状が改善しない場合、不必要な薬の増量や多剤併用に繋がります。結果、百害あって一利なしの状況に陥ることもあるため、用法用量は守るようにしましょう。
勝手に中止しないこと
先に述べましたが、抗うつ薬の効果が出てくるまで1~2か月かかるため、「数日飲んだけど効果がない」といった理由で中断しないようにしてください。薬を急に辞めることで生じる副作用もありますので、薬を辞める際は医師と相談しながら徐々に減量していくことをお勧めします。
改善後も継続すること
改善後すぐに内服を中断するとうつ病が再燃するリスクが高まることが分かっています。
効果が認められた場合、少なくとも半年、可能であれば1年間は薬を継続するのが望ましいです。
症状が改善した後に薬を減量した人が、同じ量の薬を継続している人と比べてどれだけ再発したかを比較した研究結果(海外)。
このグラフの読み方としては、ハザード比の数字が大きいほど薬を減らした人の再発リスクが高いということになります。この研究結果では寛解後すぐに減量するほどハザード比が高く、再発しやすいことが分かります。寛解後60週程経過した時点でハザード比は1となっており、60週後(およそ1年後)には薬を減量しても継続しても再発リスクに差がなくなるということを示しています。
※様々な研究が行われており、中には2~3年は継続した方が良いという研究結果もあるようです。
副作用が出た場合の対処法
本日紹介した以外にも様々な副作用を生じる可能性があります。多くは内服を続けることで軽減していきますが、軽減しないこともあります。薬を飲み始めてから何か気になる症状が出た際は、次の受診時に主治医に症状を伝えておきましょう。しかし症状が強い場合は、電話や予約変更等で早めに相談しましょう。
性機能障害等の副作用はなかなか言い出しにくいものですが、抗うつ薬は基本的に抑うつ症状が改善した後も長期に内服する薬です。せっかく病気の症状が改善したにも関わらず副作用のために以前のような生活を取り戻せなかったら元も子もありません。どうしても医師に伝えづらいという場合は看護師に相談される方もおられます。
病院で行う副作用対策
抗うつ薬開始直後で副作用の程度が軽い場合
1.様子を見る
2.副作用を和らげる薬を使う
抗うつ薬の効果はどんなに早くても開始後2週間以上経たないと現れてきません(通常1~2か月)。一方副作用は内服開始後まもなく出現し、多くの場合内服を続けることで軽快します。そのため、内服開始直後で副作用の程度が軽い場合は特別な対策は行わず様子をみていくことが多いですが、吐き気や便秘などの副作用症状に関しては吐き気止め・緩下剤等の薬で対応することもできます。
副作用の程度が重い、もしくは抗うつ薬を既に4週間以上続けている場合
1.服薬タイミングを変更する
2.抗うつ薬の量を減らす
3.別の抗うつ薬に変更する
いずれの対策を行うかは抗うつ薬の効果と副作用の兼ね合いで判断します。
1.眠気などの副作用の場合は、活動時間に支障が出にくい時間帯に内服タイミングをずらすことで対応できることがあります。
2.抗うつ薬の効果が十分得られているけれども、副作用が辛い場合は抗うつ薬の減量を試みます。
3.副作用が重かったり、抗うつ薬を続けているけれどもあまり効果がない場合、抗うつ薬を変更します。
自身で出来る副作用対策
副作用によっては自身でできる対策もあります。取り入れられそうなものがあれば積極的に実施してみましょう。
便秘・喉の渇き
三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬で生じやすい副作用です。
〇食物繊維を多めにとる
〇水分をこまめに摂取する
〇運動(ウォーキングや階段昇降など)を取り入れる
といった対策があります。
眠気
NaSSAや三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬で生じやすい副作用です
〇30分以内の昼寝を取り入れる
〇日差しを浴びる(陽が照っていなくても、外の光を浴びるだけで十分)
〇就寝中の睡眠の質を高める
といった対策があります。
睡眠の質を高める方法については「自身で出来る睡眠対策」を参考にしてみてください。
体重増加
食欲を増加させるNaSSAや三環系抗うつ薬で認めやすい副作用です。
体重が増えてきた方は
〇食事に気を付ける(朝食をしっかりめ、夕食は控えめに。1日3食とり、間食は控える。など)
〇運動を取り入れる(ウォーキングやストレッチ)
を意識しましょう。お茶碗を一回り小さいサイズに変えたり、ジュースではなくお茶を常備するといった対策も考えられます。
吐き気・下痢
SSRI、SNRIでよくみられる副作用です。
〇消化の良いものを選ぶ。
〇1食を控えめにし複数回に分けて食べる
といった対策があります。
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